たぬきとくまの台所

平成生まれのアラサーのたぬきとくまの夫婦の台所

サーモンは半生がうまい

 くまは、グラブルを嗜む。ちょっとだけ。

 ほとんど幽霊部員なのだが、うまい晩飯が作れると仲間内のチャットへ飯テロに赴く。

 

 そんなグラブル方向からえらくこのブログを褒めていただいた。ありがたいことだ。そしてリクエストも頂戴した。「いつもテロってくる、くまメシのことは書かないのか。」

 確かに当ブログはといえば、ぬか漬け、失敗談、漫画飯、あと昆布が今の所の内容で、くまが普通に作って普通に成功したメシーーつまり「美味しいものができたよ」という話は、まだしていない。

 

 そこで、今回は当家の定番料理、「サーモンのミ・キュイ」についてお伝えしたい。

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 ミ・キュイ。ミキュイとも書くが、これはどうもフランス語にて「半生」を意味する語彙であるらしい。半生といっても例えばカツオのたたきのように表面焼いて中は生という方向での半生ではなくて、全体をベターっと低音で加熱して火が通りきらない状態にする、という意味での半生だ。これがめっぽううまいのだ。

 

 

 当家にサーモンのミキュイという文化を持ち込んだのは、ぐるなび「みんなのごはん」の2018年7月6日付けエントリ、『「低温調理」の世界は奥深い…! 数学的に突き詰める低温調理マニアに安全な加熱の心得を聞いてきた』だ。

r.gnavi.co.jp

 

 このエントリでは、豚の低温調理チャーシュー、低温調理鶏のオーブン焼き、そしてサーモンのミキュイという3つのメニューが紹介されている。前の2つには低温調理器「Anova」が要るのだが、当家にそんなハイテクなものはない。そこで一番最後の「サーモンのミキュイ」に目をつけた。

 

 

 

 例によって詳しい作り方は上記のリンクを参照して欲しい。他所様でレシピを出しているものを、こちらが詳らかにしてしまうのはなんか違うと思うので。

 概説ながらこっちで書くと、「ブライニング」という作業で調味・下処理したサーモンのサクを、熱媒体としての食用油で満たしたフリーザーバッグに入れて湯煎する。温度はお風呂くらいの40℃前後だ。実際、ウチでは一番風呂に20分ちょっと浸けている。

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固定は紙ガムテープ


 

 「風呂桶で料理するのは衛生的にどうだよ」というご指摘は甘んじて受ける。然れども、調理用温度計がない、低温調理器がない我が家で、安定した水温で低温調理できる環境は、自動風呂釜がついたお風呂しかなかったので、どうかどうかこらえていただきたい。

 

 

 こういった理由があるので、当家に遊びに来ていただいても「私は風呂桶で作った料理でも気にしません」と予めお伝えいただかないと、ミキュイはお出しできないのであしからず。

 しかし実際、鍋に温水を張って、5分くらいおきにぬるまった水を入れ替えながら作ったときと、風呂に20分浸した時では、風呂のほうが安定して美味しくできたのは事実である。

 

 しっかりと明記しておくが、ミ・キュイのキモは衛生管理である。

 ミ・キュイ。繰り返すが、フランス語で「半生」を意味するので、つまり火が通っていない。調理工程で熱を入れるが、それはあくまで魚のタンパク質の変性温度ギリギリであって、殺菌ができる温度ではないのだ。だから「加熱用の切り身」でやってはいけないし、「前使って洗ったフリーザーバッグ」は雑菌がコンタミしてくるのでダメだし、「長時間の加温」は雑菌の繁殖を助長してしまうし、同じ理由から加熱が終わったら急冷しないとだめだ。これでも気を使うのだ。いろいろ。ミキュイ沼にハマるとフリーザーバッグの類はすごく早くなくなるので、材料と合わせて買っておくのが良いと思う。

 

 

 

 そして肝心なのはミ・キュイのお味である。

 上掲エントリには、ミ・キュイの食味の説明として「ミキュイはミキュイなんです(原文ママ)」と書いてある。

 そして実際、ボキャブラリが貧しくて申し訳ないのだが、ミ・キュイはミ・キュイであるとしか言えないのだ。頑張って表現するなら、「鮭フレークのお刺身」的な感じ。筋肉の結合組織だけが熱で壊れて、シート状の筋膜が1枚1枚剥がれてくる。確かに加熱の気配は感じるものの食感は生のそれであり、脳がバグる。

 味付けはブライニングで塩味と甘みが入っているので、何もつけずともよいが、お好みでバジルのソースとかいいんじゃないかな。そんな具合。お醤油とかで汚していない、サーモンのクオリティが顕著にわかります。様々な媒体で弄ばれがちな「素材を活かす」というタームを文字通りガッチリ感じる。ぜひ良い鮭などを使ってお試しいただきたい。うちもスーパーの2割引以外の良いサーモンでやってみたいものだ。

 

 

 味付けはこの料理の少々厄介なところで、ブライニング液のレシピで塩梅が9割決まる。「サーモンのミ・キュイ」で検索すると、まあそれなりにはレシピが引っかかり、様々なブライニング液のレシピがヒットする。いろいろ試してみたが、当家としてはやはり上掲「ぐるなび」のレシピーーであるからつまり、その記事で調理を担当した低温調理のスペシャリストのNickさんのレシピーーが一番美味しかった。

nick-theory.com

 

 工程全体を通して、材料は、鮭、水、塩、砂糖しか使わない。香味塩だのブランド塩だの良い砂糖だの、そしてなにより良いサーモンだのとこだわりだしたらえらい沼れる料理であると思うので、各位ぜひ大いに沼ってみて欲しい。各員の検討を祈ります。