カレーは和風になるものか?
実家から飛来した長ネギが傷みかけていた。そしてたまたまひき肉が安い日だった。
長ネギ。ひき肉。
この2項目を入力したくまの脳みそは、速やかに答えを出した。
和風キーマカレーにしよう。
とはいえ。一般的にカレーは洋風の食い物である。
もちろん洋食屋ならずともカレーライスは食える。ラーメン屋でもそば屋でもカレーは食える。中にはおだしの効いた和風のカレーもあるだろう。とはいえ、その日思い立ってその日のうちに作るような全く用意も心得もない状態から、和風カレーなどという変化球はひねり出せるものなのだろうか……?
ーーなどと考えながら適当に台所に向かったら、なかなか切れ味鋭いスライダーが生まれたのでシェアしたいと思います。
はじめに、今回のレシピはかの有名な「はらぺこグリズリー」さんの和風キーマカレーレシピに強く影響されている。実際、買い物の途中までは、こちらのWebページを見ていた。
とはいえ買い物の途中からだんだん面倒くさくなって、独自解釈ありあり、上掲ぺージは参考程度の謎レシピに派生していった感じであるので、レシピをまるっと剽窃して載せているわけではない旨だけご承知いただきたい。よし言い訳終わり。
さて、まずは材料から。はらぺこグリズリーさんにならい、エスビー食品の「ゴールデンカレー」を基準としています。和風キーマカレーを作るなら、ゴールデンカレーがいちばんうまいんだって書いてあったので、変な冒険心を出さずに黙って従う。家にバーモンドカレーが眠っていたのにわざわざ買った。カレールーのセール日でもないのに。
・合挽肉 600グラム程度
・玉ねぎ スーパーで売ってるサイズ2つ
・人参 1本
・長ネギ 使いたいだけ
・生姜 2かけ
・ごま油
・ゴールデンカレー辛口 1箱
・めんつゆ 味見をしながら
・和風だしの素 2袋
・水 700mlくらい
まぁ細かいところは、具材の具合や好みの粘性等を考慮して勘案してください。
作り方はーーいりませんね? 箱の裏をみてください。全部細かく刻んで炒めて煮るだけです。TIPSだけ箇条書きしておきます。
・最初は生姜から。香りを出したところで他の野菜微塵をわっといれる。
・玉ねぎのカラメリゼはお好みで。小一時間かけて飴色玉ねぎ作ってこいなどとは言いません。
・挽き肉は触らないで焼き付け、メイラード反応を起こしたい。鍋よりフライパンで加熱するほうが向いてます。「どうせ全部炒めるんだから」と野菜も肉も一緒くたにしないで、別々で適切な加熱をするほうが多分おいしい。
・めんつゆの入れ加減は、ルーの投入前に味をみて「んーちょっと薄い」くらいでOK。
・だしの素は、叶うなら昆布とカツオかイリコで。動植物ダブルスープじゃわい。
・普通のカレーならコーヒーやコンソメやローリエ、ニンニク等を隠し味にするところですが、「和風」というコンセプトが行方不明になるかなと思ったので使いませんでした。
・水加減はぶっちゃけ好みです。ただ箱の裏に書いてある1箱の目安分量1400mlでは多すぎると思います。
ーーこんなかんじです。固めに炊いたごはんにぶっかけて喰らいたまへ。
食べている最中は全然ブログにする気がなかったのでうろ覚えの食レポなのだけれど、洋風カレーが重厚な旨さが尾を引くような方向性を志向するのにくらべて、いい意味であっさりしているというか、ガツっと生姜風味で殴ってきたあと一気に味のかたまりが駆け抜けていき出汁の轍だけが残っているような、あっさり系だけどアタック強めの良いカレーでした。
ただ辛口のルーを使うこと、生姜をたくさんいれることもあり、けっこうスパイシーに仕上がるので、小さな子には向いていないかもしれないね。
とりあえず今回はこんなところで。
トマトとポン酢が合う話 Feat.豆腐
タイトルだけでこのエントリに書きたいことが半分くらい終わったんですけど。
せっかくこのブログを開いていただいたのだから、もうちょっとマシなことを書いておこう。
2015年夏。「スタミナトマト」なるものがTwitterを席巻した(ような記憶がある)。
カービィが食うと回復するやつではない。そりゃマキシムトマトだ。
要するにきゅうりとトマトのにんにくポン酢漬けである。適当なサイズに刻んだきゅうりとトマトにニンニクひとかけ(チューブひと絞りでも可)を加え、ポン酢を流し込んで漬け込む、というお手軽レシピだ。
※ 短い浸け時間ではサラダ風に、浸け時間を長く取れば漬物風になり、どちらにせようまい。ただし2晩漬けるとポン酢味しかしなくなるのでおすすめはしない。
これがめっぽううまかったので、当家ではすっかり定番となった。それから5年が経った今でもしばしば作る。アホほどポン酢が減るけれども。
いや実際、一回150CCとかそういう分量でポン酢が減るので(うちの漬け方が悪いのかもしれないが)、夏場は怖くていいポン酢なんか買えない。いっちばんオーソドックスなミツカンのアレのいちばんでっかいやつを夏場は買う。
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話がそれたが、まぁそのくらいのポン酢が必要な勢いで、当家ではスタミナトマトを良く作るのだ。
で。
つい数日前のことである。実家からトマトが大挙して届いた。
だが、きゅうりは2本しか来なかった。
一方で、大葉はさわさわ届いた。
その時当家に電流走る……! スタミナトマト、べつにキュウリなくてもいいんじゃねーか、と。
そんな次第で、トマトをザクザク刻み、きゅうりはぬか床へ投げ込んで、代わりにシソをむしむしと千切ってニンニクポン酢に浸けたのだった。うちほんとシソ好きな。
今回のエントリは要するに、この「トマトのシソポン漬け」がすげーうまかったという話です早々にネタバラシ。
この日の漬け込み時間は6時間程度。昼過ぎに作って夜9時過ぎ頃に食べた。
サラダと漬物の間の子くらいの浸かり具合だ。
トマトのフルーティな甘みと酸味にニンニクのガツンとしたインパクトがあるばかりでなく、シソの香気が相まって食欲がでるわでるわ。ちょっともうこれはよく冷えたビールかなんかでやっていただきたいですね。
そして、当家イチオシなのが、この「トマトのシソポン漬け」をヒヤヤッコにぶっかける、というソリューションです。
いや、あれなんですよ、ヒヤヤッコって飽きるじゃん。
そりゃあもちろん、国産大豆で天然水で丁寧につくりましたみたいな豆腐であれば、こちらとしても味わうのに気は抜かない。薬味もなく塩のみで勝負したりするのもやぶさかではない。
しかし一般家庭で日常的に食べるヒヤヤッコというやつは、大概が一丁150円もすれば御の字の「ふつうのおとうふ」である。スーパーのいっちばん安い豆腐でやるなら100円もしないんじゃないか。そう言うやつを相手にするなら、もっと気軽にやりたい。
多くのご家庭ではヒヤヤッコといえばお醤油、生姜にネギに鰹節までつけてくれる家もあるだろうけれども、まぁそれが定番というやつだ。絵に描いたような「冷奴」の風情である。
しかしくまもたぬきもまだ人生経験が浅いので、そういったオーソドックスな冷奴は気が進まないし、酒が飲める気もしない。
しかし、ニンニクとシソという香気たっぷりなトマトのポン漬けをつけ汁ごとぶっかけると話は変わるのです。
よく冷えたトマトを噛みしめるじゃない。すると口をちょっとすぼめたくなるような特有の甘酸っぱさとポン酢のしょっぱさがグワっと広がってくるわけだ。そこを淡い甘さのある豆腐で追っかけることのできる幸せったらないですよ。
さらにどっちも香味野菜の風味が染み付いているから、その状態からまだご飯なりお酒なりで追撃を叩き込む余地があるんですね。これはすごいことですよ。
正直、盛夏になったら、アツアツのご飯に豆腐半丁と上掲トマトのシソポン漬けをぶっかけて崩しながら行儀悪く食いたい感じがありますね、くまは今。
まぁこの、トマポンやっこをご飯にぶっかけることの是非は一旦脇へやっておくとしても、「トマトとシソをニンニクポン酢に漬ける」「それを豆腐へぶっかける」というソリューションは本当におすすめなので、ぜひやってみてください。
勿論本来のスタミナトマトのレシピどおりにキュウリを入れてもいいでしょうし、シソがなければ省いても多分いいと思います。茗荷があるなら入れてしまっても、それはそれで違った感じで美味しいんじゃないかな。やってみてください。まだ試してないけど。
なお、ヒヤヤッコならキムチとか塩昆布とかいろいろ味変があるじゃん、というご指摘は甘んじて受け入れる。実際当家でもしばしばやる。
しかし、今回はスタミナトマトとその亜種の話がしたかったので敢えて触れなかった。勘弁な。
風雲ぬかづけ録2 野田琺瑯のヌカタッパー編
帰ってきたぬか漬け編。
たぬきのプロットをもとに、今回も更新してまいりますよ。
うまいぬか漬けを作りたい。
そう思ったら、「もみーな」という便利な商品がある。
とはいえ、もみーなは便利だが高くついてしまう。
日本古来のつけものは、こんなにランニングコストが高いものなのだろうか。
ジャブジャブ出てくる水分は、どうやって除去したらいいのだろうか。
常温保存のぬか漬けは、怖い。冷蔵庫でゆるやかに発酵を進めていきたい。
ーーというわけで、「冷蔵庫でぬか漬けがしたい」という強いニーズを抱いたたぬきはググりにググって、こんな商品を見つけてきた。対応に困っていた「ぬか床の水っけ」を除去する小さな水抜きもついている。
野田琺瑯は「丁寧な暮らし」に憧れる女子の必須アイテム! ーーと、さっきからたぬきが鼻息荒く主張している。
もちろんプラ容器と比べたら高く見えるところは認めるところだ。しかし当家、初期費用は払っておくに越したことはない、と信じる派なのであんまり問題視はしていない。
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買った結果、いまは4年目。こんなに使ってるので実質タダみたいなもんだろう。
一年くらい放っておいた時期はあったんですけどね。このあたりを順繰りに振り返ってまいりたいと思います。
前のエントリでご紹介した「もみーな」に、いりぬかの粉を足して水分量を調整しながら、我が家におけるぬかづけ道というのは始まった。これでうまいこと「もみーな」を培養して増やし、ぬか漬けを始められると考えた。
しかし早速結果をぶっぱなしてしまうが、無理だった。
初心者がぬか床を培養して増やそうとするのは無理があった。
まぁ、そりゃそうである。からしのチヨダさんの企業努力の賜物が、純正ですらないサードパーティのヌカパウダーを足してやるだけで無限に量産できたら世話はない。
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最初はーーもみーな分が高いうちは美味しくできるのだが、そのあときゅうりやらなすやらの乳酸菌がはびこり、信州味噌の風味も薄れてくると、なんだかだんだん美味しくなくなってくる。
塩気の浸透が悪い。風味も微妙だ。クレゾール臭やセメダイン臭の気配もしてきて、じっさいくまはこの時期のぬか漬けは謝絶状態であった。
ぬか床を冷蔵庫から常温に移せばもちろん早くつかるが、なんだか野菜がすごい速度で茶色くなる。これは発酵というか腐敗してんじゃないのか。
そんな次第で、当家のぬか床担当官であるたぬきは大いに困った。
もののサイトによれば、ぬか床の「かき回しすぎ」あるいは「かき回さなさすぎ」によってぬか床はバランスを崩して美味しくなくなるらしい。
また冷蔵庫ではぬか漬けはできないと言う人、いやべつに冷蔵庫でもぬか漬けはできますよという人、様々な論客がいる。
ぬか床を放っておくと「膜産酵母」なるものが膜を貼るらしいが、当時の当家のぬかどこでそんなものを見たことはついぞない。
正解が、わからん。
などと苦心していたら、ある日忙しかったか忘れていたかで野菜を入れ忘れ、それからなんとなく世話し忘れて、軽く1年経った。
興味を失ったものが視界に入らなくなるたぬきと、口を出してぬか漬けタスクをおっかぶせられるのが嫌だったくまの消極的権限争いのすえ、1年経ってから開封されたぬかどこは、まぁ当然真っピンクにかびていた。勿論捨てた。
そうして、当家のぬか漬けシーズン1は終りを迎えたのだった。
心機一転のシーズン2へ続く!
そんなわけで今回は、野田琺瑯のぬか漬け容器はべんりだぞってとこだけ、覚えて帰ってください。
テレビめし:うにたまご
テレビでやってたアレを作ろう。
そう思うこと、自炊をする人ならだれでも一度位はあるのではないかと思う。
ただ「テレビでわざわざやるようなメシ」というのは大概にしてものすごく面倒とか材料がご家庭にないとかして、あんまり「おうちでできました」等といえるものではなことが多い。それもお料理ハウツー番組ではなくて、ドラマに出てきたうまそうなメシなんぞを再現しようと思った日には、どれだけの手間や機材がいるのか考えるだけに恐ろしい。
しかし。
ずぼらでものぐさな我が家ではあるが、うまいこと再現に成功したテレビめしがひとつあった。
「うに味玉」である。
大人気グルメドラマ「孤独のグルメ」、あれは確かシーズン5の最終話だったと思う。居酒屋で、店主がムロツヨシで、ゴローちゃんが居酒屋メシを組み立てていた、そんな回だ。
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そこで登場したのが「味付け玉子にウニのっけたやつ」であった。以降長ったらしいので「ウニ味玉」と呼称する。
ちょっと今「孤独のグルメ」を見直して正確な話数だのメニュー名だのを引っ張ってこようとすると、普通に見入っちゃってブログ記事どころではなくなりそうなので、ずいぶんざっくりした言及で失礼する。
当たり前だが一般家庭にウニはない。
そこは、わざわざ買いに行かなくてはならない。
例えば菜っ葉をいい感じに茹でていい感じの和え衣でいい感じに胡麻和えを作るとして、この大量に挟まってくる「いい感じ」をキッチリ過不足なく「いい感じ」にしてやらないとお店クオリティというか、飲み屋クオリティが実現できないことを考えるなら、味玉とウニがあればなんとなしそれっぽくなるこの「ウニ味玉」の実戦投入によって、より簡易に頭悪くお店クオリティで飲めるのではないだろうかーー。
と、当家はこのような推論を行い、さっそくウニを手配した。もう何度か前の冬のことであった。
手配したのは「ブランチウニ」である。
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ウニというやつは身が崩れるのでミョウバンだの塩水だのなんだかんだといって長期ーーは無茶にせよ、少なくとも流通には耐える感じで保存しようとする。国内ウニだと、おそらく主流はミョウバンで、その次にプレミアム感を漂わせつつ塩水、最後に「活けでもってくる」という禁じ手があろう。
しかしてブランチはどれでもない。
「一瞬湯がいて表面を固めてしまえ」という乱暴な発想のやつで、そのくせ添加物の味や匂いはしないので、主に輸入ウニを中心に、この技術で加工して日本へ運ばれてくるらしい。
ウニはピンキリであって、北海道産エゾバフンウニだなんだと能書きをたれれば100グラムで3000円も4000円もするやつがお取り寄せではごろごろしている。
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ただ、そんなもんを味玉にのっけてしまうのは恐れ多い。
ていうかそもそも価格的に手が届かねぇ。
そんなわけで我が家はもっぱら、100グラム1000円強のブランチウニを愛用しているのである。安いとは言わないが、相対的に考えて結構お手軽にウニ〇〇を作れるのでふつうにおすすめですよ。絶対値で言えばそりゃあなたお高いですよウニだもん。
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さて、そんなわけでウニを用意していただく。冷凍で送られてくるので、一晩もチルド室に入れておけば溶けるだろう。
そしてもう一方では味玉を用意する。
茹で時間としては、冷蔵庫から出したてをお湯に叩き込んで6~7分のトロトロ加減がよいのではとおもう。ソレを煮きったみりんとめんつゆの混合液にじゃぼっと浸して1晩待っていただく。
味玉を作るに当たり、調味液の味付けをどうするのか、というのは当家でも度々浮上する大問題なのだけれど、たぶんウニをあわせるのであれば醤油味玉がいいのではと思う。さらに「醤油!」というどぎついアタックがあってはもう醤油の塊をしゃぶっているような心象風景になってくること請け合いであるので、適当なめんつゆをちょっと薄めて、砂糖なりはちみつなり味醂なりで甘みを足していただきたい。
そのへんの委細なレシピに関しては、当ブログの守備範囲外であるのでもう諦めてください。お料理研究ブログじゃないのだ、ここは。うまかったよ帳であるのだ。
閑話休題、そんな次第でブランチウニを用意し、あまから醤油味玉を用意したと。ここまではいいですね。ここまでは下ごしらえですからね。
あとはテグスで味玉を真っ二つに割り(包丁で割ってもいいですけどトロトロの黄身が持っていかれますからね)、液状化した黄身の流出を食い止めるような心持ちでウニをのっける。そして、あればワサビをちょっぴりと上にのっけてやる。
そうしますとテレビメシ「ウニ味玉」でございます。
コレステロールや中性脂肪のことは忘れて、芳醇なタイプの日本酒と一緒にどうぞ。
サーモンは半生がうまい
くまは、グラブルを嗜む。ちょっとだけ。
ほとんど幽霊部員なのだが、うまい晩飯が作れると仲間内のチャットへ飯テロに赴く。
そんなグラブル方向からえらくこのブログを褒めていただいた。ありがたいことだ。そしてリクエストも頂戴した。「いつもテロってくる、くまメシのことは書かないのか。」
確かに当ブログはといえば、ぬか漬け、失敗談、漫画飯、あと昆布が今の所の内容で、くまが普通に作って普通に成功したメシーーつまり「美味しいものができたよ」という話は、まだしていない。
そこで、今回は当家の定番料理、「サーモンのミ・キュイ」についてお伝えしたい。
ミ・キュイ。ミキュイとも書くが、これはどうもフランス語にて「半生」を意味する語彙であるらしい。半生といっても例えばカツオのたたきのように表面焼いて中は生という方向での半生ではなくて、全体をベターっと低音で加熱して火が通りきらない状態にする、という意味での半生だ。これがめっぽううまいのだ。
当家にサーモンのミキュイという文化を持ち込んだのは、ぐるなび「みんなのごはん」の2018年7月6日付けエントリ、『「低温調理」の世界は奥深い…! 数学的に突き詰める低温調理マニアに安全な加熱の心得を聞いてきた』だ。
このエントリでは、豚の低温調理チャーシュー、低温調理鶏のオーブン焼き、そしてサーモンのミキュイという3つのメニューが紹介されている。前の2つには低温調理器「Anova」が要るのだが、当家にそんなハイテクなものはない。そこで一番最後の「サーモンのミキュイ」に目をつけた。
例によって詳しい作り方は上記のリンクを参照して欲しい。他所様でレシピを出しているものを、こちらが詳らかにしてしまうのはなんか違うと思うので。
概説ながらこっちで書くと、「ブライニング」という作業で調味・下処理したサーモンのサクを、熱媒体としての食用油で満たしたフリーザーバッグに入れて湯煎する。温度はお風呂くらいの40℃前後だ。実際、ウチでは一番風呂に20分ちょっと浸けている。
「風呂桶で料理するのは衛生的にどうだよ」というご指摘は甘んじて受ける。然れども、調理用温度計がない、低温調理器がない我が家で、安定した水温で低温調理できる環境は、自動風呂釜がついたお風呂しかなかったので、どうかどうかこらえていただきたい。
こういった理由があるので、当家に遊びに来ていただいても「私は風呂桶で作った料理でも気にしません」と予めお伝えいただかないと、ミキュイはお出しできないのであしからず。
しかし実際、鍋に温水を張って、5分くらいおきにぬるまった水を入れ替えながら作ったときと、風呂に20分浸した時では、風呂のほうが安定して美味しくできたのは事実である。
しっかりと明記しておくが、ミ・キュイのキモは衛生管理である。
ミ・キュイ。繰り返すが、フランス語で「半生」を意味するので、つまり火が通っていない。調理工程で熱を入れるが、それはあくまで魚のタンパク質の変性温度ギリギリであって、殺菌ができる温度ではないのだ。だから「加熱用の切り身」でやってはいけないし、「前使って洗ったフリーザーバッグ」は雑菌がコンタミしてくるのでダメだし、「長時間の加温」は雑菌の繁殖を助長してしまうし、同じ理由から加熱が終わったら急冷しないとだめだ。これでも気を使うのだ。いろいろ。ミキュイ沼にハマるとフリーザーバッグの類はすごく早くなくなるので、材料と合わせて買っておくのが良いと思う。
そして肝心なのはミ・キュイのお味である。
上掲エントリには、ミ・キュイの食味の説明として「ミキュイはミキュイなんです(原文ママ)」と書いてある。
そして実際、ボキャブラリが貧しくて申し訳ないのだが、ミ・キュイはミ・キュイであるとしか言えないのだ。頑張って表現するなら、「鮭フレークのお刺身」的な感じ。筋肉の結合組織だけが熱で壊れて、シート状の筋膜が1枚1枚剥がれてくる。確かに加熱の気配は感じるものの食感は生のそれであり、脳がバグる。
味付けはブライニングで塩味と甘みが入っているので、何もつけずともよいが、お好みでバジルのソースとかいいんじゃないかな。そんな具合。お醤油とかで汚していない、サーモンのクオリティが顕著にわかります。様々な媒体で弄ばれがちな「素材を活かす」というタームを文字通りガッチリ感じる。ぜひ良い鮭などを使ってお試しいただきたい。うちもスーパーの2割引以外の良いサーモンでやってみたいものだ。
味付けはこの料理の少々厄介なところで、ブライニング液のレシピで塩梅が9割決まる。「サーモンのミ・キュイ」で検索すると、まあそれなりにはレシピが引っかかり、様々なブライニング液のレシピがヒットする。いろいろ試してみたが、当家としてはやはり上掲「ぐるなび」のレシピーーであるからつまり、その記事で調理を担当した低温調理のスペシャリストのNickさんのレシピーーが一番美味しかった。
工程全体を通して、材料は、鮭、水、塩、砂糖しか使わない。香味塩だのブランド塩だの良い砂糖だの、そしてなにより良いサーモンだのとこだわりだしたらえらい沼れる料理であると思うので、各位ぜひ大いに沼ってみて欲しい。各員の検討を祈ります。
昆布は持て余さない 後編 おうち昆布締め
続き物の記事、冒頭何書くか困りますね。
前記事はこっち
です。
さて、板昆布はいいぞという話題の後半節は、昆布締めの話だ。
そもそもご存知ですか昆布締め。あれね、白身の魚を昆布で挟んで寝かすと昆布味が魚にうつってうまいっていうやつね。さらに魚の水気も昆布が吸うので、日持ちもするようになるらしい。
漫画「江戸前の旬」だと何気ない技として使われていて、一方「将太の寿司」では必殺技めいて登場した、この扱いの差が印象的でしたね。青年誌と少年誌の違いでしょうか。
閑話休題、昆布締めというのは当家にとって長らく「お店屋さんの味」であった。
それらしきものをこしらえようと、とろろ昆布で刺し身を巻いてみたり、粉末だし昆布に切り身を埋めてみたりなどしたが、いまいちおいしくなかった。
しかし人間というのは、あまり食べ慣れないとか、現実的に作るのが難しいとかいうものを「猛烈に食べたい!」と思うことはないものである。「よそのたべもの」のカテゴリにしまわれてしまう、とでも言えばいいのだろうか。
例えば何かの拍子に食べたエスカルゴのブルゴーニュ風が美味しかったとして、だからといって「家でエスカルゴのブルゴーニュ風食べたいし作ろうかな」と思うことはあんまりないのではないだろうか。
当家にとっては、昆布締めというのはそういう立ち位置のしろもので、あんまり「作ろう」とは思わないものだったのだ。
そこに昆布がやってきた。「今こそ昆布締めをやってみるときでは」と天啓が下った。折角の板昆布である。これに使わずになんとする。
行きつけの魚屋で鯛のサクを買うと、料理酒で湿らせた昆布ではさみラップでくるんで冷蔵庫に一晩寝かせた。
↑魚屋で買うと こんなに高くない
いやほんとに昆布締めの作り方というのはこれだけだ。
白身のサクを用意し、酒で湿らせた昆布ではさみ、一晩寝かせる。
なんだったらちびっこの家事手伝いとしても余裕であろう。昆布締めという成果物をちびっこが喜ぶかどうかはだいぶ分が悪いけど。
しかし、これだけのことが、だし昆布、板昆布というものを常備しない当家では長らく行われなかったのである。
で、一晩待った。
そして翌日、ちゃんと食えるものができているのか、と不安がりながらサクの端っこを切ってつまむとちゃんと昆布締めになってるじゃないですかあなた。
えらいぞ昆布。くまはその間いびきかいて寝てただけだが、昆布は一睡もせずキッチリ仕事をしてくれた。おかげでその晩は日本酒がたいそう進んだ。
そうして昆布締めという概念がアンロックされたため、当家では以来、昆布が常備されるようになった。今年の晩春のことである。白身のサクが安いときに度々作る。
もちろん、ガチの料理屋で出そうと思ったらこうシンプルにはいかないのだろうが、所詮は家庭料理である。てきとうでええねん。白板だとか羅臼だとかめんどうなことはいっこも考えなくていい。板昆布であればいい。
初回こそ高い昆布で作ったけれども、昆布締めのハウツーを理解した2度め以降はスーパーのプライベートブランドで売っているやっすい昆布である。それで問題なくうまい。でも早煮昆布というのいだろうか、安くて薄いシワシワしたタイプの昆布だと魚と接触しにくいので、まったいらな昆布を選ぶほうが楽だとは思う。
なお、「サクでは多すぎる」という場合には、お刺身の状態からでも昆布じめになるらしい。昆布で挟んで3,4時間が食べごろだそうだが、試したことはない。誰か人柱になってくれんか。
注意点としては、あまり長いこと昆布を当てないこと。水気が抜けすぎてかたいグミみたいになるらしい。サクならば1晩、刺し身なら上記が目安だ。
あと昆布がもったいないけど保存して再利用ーーとかは考えないこと。直ちに佃煮にするとかであれば問題はないと思うけど、だいぶ水気を吸っているので保存性はむちゃくちゃ悪くなっている。傷まないうちに使うか捨てよう。昆布というやつは、ただでさえ糸を引くからアカン時の見分けが付きづらくて始末が悪いよね。
まぁそういったわけで、乾物としての昆布というやつには、昆布だしをとる以外にも様々な使いみちがある。ウチではもう完全に漬物の味をエンハンスするか、昆布締めの材料としてのみ乾物の昆布を買っている。昆布だしは相変わらずリケンの粉末昆布だし
に頼る始末だ。
こういった意識の低い料理しかしないおうちでも、昆布ってやつは全然使えるし、ぜんぜん怖くないので、みんなもスーパーに行ったら乾物の棚で昆布を買おう。
ーーとか言ってたら前後編に分けたにもかかわらず文字数が2000に迫ったので、今回はこのあたりで失礼。
昆布は持て余さない 前篇 つけもの
あなたの家に、突然昆布がやってきたとする。
あの黒くて平べったい海藻を伸ばして干した、カッチカチのやつである。
正直、多くの方は「えっなにそれ困る」と考えるのではないだろうか。
くまが考えるに、お料理ニュービーが対処に困る食材として、割合上位に入るのが昆布なのではないか、と思う。
ていうかそれなりに経験値あっても困りませんか昆布。保存はきくけど場所とるし、出汁とるのめんどくさいじゃない。鍋に昆布を入れて加熱して沸騰直前に引き上げろって、それつまり鍋を意識のはしに捉えながら他の作業をしろってことじゃない。そんなめんどうなことをやるなら、リケンの顆粒こんぶだしとか、昆布茶で代用したらいいじゃない。
ーーとまぁ、そう思っていた時期がくまにもありました。
実際、自炊らしきものを初めて10年強になるけれど、昆布というものを購入するようになったのはこの半年くらいだ。
「昆布、使えるやんけ」と、今回はそういう話をしたい。
そもそもなんだって昆布が我が家に出没したのか、というと実家からのおすそ分けだ。縁あって、なんだかものすごく良い昆布をもらったのだという。こういうかんじのちゃんとしたやつである。
あんまり興味のないものでも「すごくいいものだよ」と言われれば気になるのは食いしん坊の性である。このままでは親父のおしゃぶり昆布になると聞き、そのくらいならものの試しに、と数十センチ切り出してもらった。
そうしたら、まぁ自炊がとてもはかどったのだ。
まず、つけものによい。
ぬか漬けーーの話は別エントリでするので割愛。
それ以外、ポリ袋なんかでさっくりできる調理法としては、浅漬によし、千枚漬けによし、である。
浅漬は適当な浅漬のもとを使えばいい。適当な野菜を刻んで漬物のもとをぶっかけ、そこにちょっと昆布の切れ端を足してやると、とろみと旨味がきいた飯泥棒になる。
千枚漬けであれば、スライスしたカブに、スーパーのお酢コーナーに売っているおかず酢というか万能酢をぶっかけておけばよい。だいたい当家の舌には市販の和食調味料は甘すぎるのだけれど、甘みがうまいこと旨味でマスクされて食べやすくおいしくなる。こいつはご飯ではなく日本酒でいただきたい。芳醇なタイプの濃い日本酒をやりながら、口直しというか清涼剤に昆布だしのきいた千枚漬け、どうでしょうか。清冽なタイプの日本酒でもいいですよね、その場合には千枚漬けの立場はむしろお酒とのコントラスト要員というか、口の中に甘酸っぱさの衝撃を起こす担当に入れ替わるわけですけど。あー呑みたくなってきた。(早口になるオタク
このあたり、昆布茶や昆布粉末だとなぜか上手にできない。
いや別に「絶対的な真実として粉末昆布は漬物に使えません」と云いたいのではなくて、くまの腕では美味しくならなかった。昆布茶は塩味がある程度ついているので、「昆布の味を足す」のではなく「昆布風味の塩味を足す」「昆布茶の味を足す」感じになってしまう。また昆布粉末はどうやら水というか調味液には混ざりづらいようで、あまりよい昆布味が出てくれなかったのだ。思ってたんと違った。
しかし昆布というやつは、伊達に昔から使われているわけではない。既存の調味料にポイと入れるだけで味がグレードアップしてくれる。とてもよい。
そういった次第にて、まず「自家製おつけもの」に良い昆布ちょいたし、これおすすめです。
ーーと、ノリノリで書いていたら文字数が2000字超えそうになってきたので、ちょっと前後に分割することにしますごめん。エントリの文字数ってどんくらいが適当なんでしょうね。
後半も近いうちにアップするので、またお付き合いください。